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核酸医薬 episode1


核酸医薬品への期待が高まっています。 遺伝子の発現に直接作用することにより、低分子医薬品や抗体医薬品では狙いにくい治療標的にも対応できる、これまで治療が難しかった病気の治療が可能になる、と考えられており、製薬企業が研究開発を強化、関連産業でもM&Aや原料ビジネスの拡大等の動きが活発化しています。

これまでに有効な治療法がない医療に対するニーズ(アンメット・メディカル・ニーズ)に対し、核酸医薬品の実用化によって新しいモダリティ(創薬手法)として定着するか、注目されています。

医薬品には以下のものがあります。

1)低分子医薬品 細胞の表面の受容体にアンタゴニスト(ぴったりはまる物)が来ると、「細胞を作れ」「細胞を縮めろ」等のシグナルが伝わります。 受容体に覆う物がつくと、その受容体を利用したシグナル、例えば「血圧上昇」「細胞増殖」等のシグナルは伝わらなくなります。 低分子医薬品をつくるときは、たくさんの化合物を合成し、受容体にくっつく物、作用する物をさがします。

2)抗体医薬品 がん細胞や外来の異物にくっついて、その働きを止めます。抗がん剤では、抗体が、がん細胞に特徴的なタンパク質の形を認識してくっつき、がん細胞をやっつけます。

3)核酸医薬品 「核酸あるいは修飾型核酸が直鎖状に結合したオリゴ核酸を薬効本体とし、タンパク質発現を介さず直接生体に作用するもので、化学合成により製造される医薬品を指す」とされています。 核酸は全ての生物の細胞内に存在し、タンパク質の合成や生物の遺伝現象に関与している物質で、ヌクレオチド(塩基+糖+リン酸のつながった物質)が長く鎖状に結合したものです。

※リン酸・・・生体内のリンはほとんどがリン酸の形で存在し、リン酸塩およびリン酸エステルとして広く生物界に分布します。高エネルギーリン酸結合をつくって、エネルギー代謝に重要な役割を果たします。

核酸には、リボ核酸(RNA)とデオキシリボ核酸(DNA)の2種類があって、RNAには糖のOH基がありますが、DNAではOHのOがとれて(デオキシされて)Hがついているかたちで、反応しやすいOH基がないため安定しています。 DNAは細胞核の染色体に局在し、遺伝情報を保管する遺伝子の本体であり、RNAはそのヌクレオチド配列にしたがってタンパク質を産生し、遺伝情報を特定の形質や機能として発現するための担い手となっています。

※OH基・・・酸素:O には他と結合する手が2本あり、水素:H の手は1本だけです。OとHが結合すると(OH基)、Oの手が1本余ります。このままでは不安定なので他のものと手をつなぎたがります。 例えば他のHと手をつなげば、H2O(水)になります。この状態で余っている手はないので、安定的な分子として存在することができます。「基」は、このように手をつなぎたがるものの総称です。

核酸医薬品は、DNAやRNAの構成成分である塩基を組み合わせて合成された医薬品です。2本鎖RNA(siRNA)は、生体内のたんぱく質を生成するメッセンジャーRNA(mRNA)を切断します。 がん細胞の生存や成長に関係するmRNAを切断すれば、がん細胞は必要なタンパク質を得られなくなり、結果として 抗腫瘍効果がもたらされます。従来の低分子医薬品や抗体医薬品では、mRNAを狙うのは難しいと考えられてきました。

2013年、日本新薬と国立精神神経医療研究センターで、デュシェンヌ型筋ジストロフィー症(DMD)の共同研究がなされています。DMDは3歳くらいで発症し、11-13歳で歩行困難になり、20歳代で呼吸不全で亡くなります。

最近では医療技術の進歩により、30歳代まで平均寿命が延びてきています。筋線維をささえるジストロフィンというタンパク質をつくる遺伝子に変異が起きると、タンパク質がうまくできなくなります。 この遺伝子は全ての情報をタンパク質に使うわけではなく、不要なイントロンという部分は抜かして、必要なエクソンという部分だけを集めて、その配列を読んでジストロフィンが作られます。 エクソンの欠損で一部の情報は失われても、読み枠がずれずに少し短いジストロフィンタンパクが生成されるのがベッカー型で、症状は軽いものです。エクソンの欠損で読み枠がずれて、遺伝子の機能全てが失われてしまい、ジストロフィンタンパクが生成されないのがデュシェンヌ型です。

※読み枠・・・ひとつのアミノ酸が3塩基で規定されることから、3塩基を一組としてゲノムDNAを区切った一連の塩基の組や範囲のこと

例えば、48から50番のエクソンが欠失すると読み枠がずれてしまいますが、もう一つ余分に無くなった48~51番の欠失ならば読み枠がずれないということから、遺伝子は機能するはずと考えられます。 この原理を応用してデュシェンヌ型の患者さんの、無くなったエクソンの次のエクソンの一部分をふさいで、そこを読み飛ばして(エクソン・スキッピング)軽い症状に変えてしまうアンチセンス核酸をつくりました。 正常の細胞内では、遺伝子情報はDNA→mRNA→タンパク質という流れで伝達されます。 アンチセンス核酸は、mRNAの塩基配列(センス配列)に対し相補的な塩基配列(アンチセンス配列)を持つ、人工的に合成したRNAまたはDNAによって、この流れを遮断するというものです。

実験では、筋ジストロフィー症でうまく歩けずに座り込んでしまっていた犬にアンチセンス核酸を投与したら、しっぽを振ってどんどん歩けるようになりました。ジストロフィンタンパクが生成されていなかった患者さんの細胞にアンチセンス核酸を投与することで、短縮型ジストロフィンタンパクの発現が確認されています。

(次回に続きます。)

出典 : 国立研究開発法人 日本医療研究開発機構 「核酸医薬品開発の現状」 2016年 ほか Responsible for the wording of this article is H.Endoh

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