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平成28年度診療報酬改定から1ヵ月余り 患者申出療養制度は?


≪困難な病気と闘う患者の思いに応えるため≫として、2016年04月からスタートした『患者申出療養制度』ですが、昨年中から議論のかまびすしかったところでした。『患者申出療養制度』は保険外併用療養制度に位置づけられ、患者さんからの申し出を起点として、国内未承認の治療や投薬を保険適用のものと併用できるようにし、かつ将来は保険適用とするためにそのデータ・科学的根拠を集積しようとするものです。

わが国の医療制度では、新しく開発された医薬品や医療機器は、専門家がその安全性や副作用について確認したうえでなければ使えるようになりません。これに対して健康保険が適用されない自由診療では、客観的なデータが無く効果が判然としない民間療法から、科学的研究が進み検証の最終段階にあるものまで、玉石混交です。個人の責任で自由診療を受けることに問題はありませんが、保険診療と自由診療を組み合わせた「混合診療」は禁止されています。最高裁判例でも≪混合診療の原則禁止は適法≫とされています(最三小判平23.10.25裁時1542号)。一部でも自由診療が含まれれば、患者さんは、もともと保険適用の治療の分まで自己負担しなければなりません。

混合診療が例外的に認められているものとして、「保険外併用療養制度」があります。評価療養(→先進医療や治験等 高度で新しい医療で、将来 保険診療への組込みについて評価する)、選定療養(→差額ベッドや予約診療等 将来も保険診療としない)から成り、保険適用部分については保険でまかなわれ、先進医療等の部分については患者負担となります。先進医療は重粒子線治療等108種類に限られ、治療を受けられる医療機関が少ない、申請から実施まで時間がかかる 等の課題があります。

このような従前の保険外併用療養制度とは別に、2015年03月、内閣府の「規制改革会議」から「選択療養制度」が提案されました。これは患者さんの自己責任において、保険適用外の治療や投薬を保険診療と併用できる とするものです。しかし混合診療の全面解禁につながりかねないとして、これにはすぐさま健康保険組合連合会等 保険者3団体や、日本医師会を中心とする国民医療推進協議会が反対を表明し、全国がん患者団体連合会等 2団体から≪保険制度を堅持しさらなる国民皆保険の充実を願う≫という趣旨の要望書が提出されました。

厳しい反対にあって選択療養制度は見送られましたが、今度は2015年06月、規制改革会議は『患者申出療養制度』の新設を盛り込んだ答申をまとめてきました。混合診療を解禁して健康保険の適用範囲を狭めてしまえば、民間にビジネスチャンスがもたらされます。現在の評価療養の医療費は約130億円、保険外医療費は約5,000億円ですが、『患者申出療養制度』からまかなわれる医療費はこれらをはるかに上回ると想定されていて、本制度に経済成長を牽引する役割を担わせようとしている、ともいわれています。

難病や希少がん等の患者さんのなかには藁にもすがる思いで、国内未承認の薬剤でも使いたい、と考えるかたもいらっしゃるでしょう。国内未承認の薬剤の7割以上は、1ヵ月あたりの治療費が100万円を超えているそうです。『患者申出療養制度』を利用して1ヵ月あたり100万円以上をかけられる患者さんは、極めて少数とみられています。新たな可能性を試したいと思っても経済的に余裕がなければ、保険外の治療を断念せざるを得ない ということになります。そこで、混合診療を受けたら例えば上限1億円まで保険がおりる といった民間の医療保険が登場してくるかもしれない、ともいわれています。

未承認の薬剤を使うことが、保険適用までの過渡的な措置ではなく、恒久化してしまうかもしれない。新しい治療法が始まっても、保険適用が遅れて高額な負担が続いてしまうかもしれない、といったことが懸念されます。何より『患者申出療養制度』は、患者・家族が望んだ制度ではなく、≪混合診療の全面解禁につながりかねない≫ということが危惧されています。

出典 : 平成28年度診療報酬改定の概要 厚生労働省保険局 2016.03.04 ほか

Responsible for the wording of this article is H.Endoh

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