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ぬけ感のあるナチュラルメイク


抗がん剤治療で肌の色がくすんだからといってファンデーションの色を変えたりせずに、肌が敏感になっている時期だからこそ、治療前から使っていたものと同じファンデーションを使いましょう。もし変える場合にも、以前から使っていたものと同じメーカーの「敏感肌用」等を使うといいでしょう。眼の下の皮膚は薄いため血液が透けて見えやすいのですが、血液は透けると青っぽく見えるので、反対色のオレンジ色系のパウダーをはたきます。血流マッサージで肌にハリを与えると化粧ノリがぐんと良くなり、薄づきのファンデーションでも肌をきれいにカバーすることができます。

ナチュラルメイクが、いちばんむずかしい? 薄づきファンデ + 血色チークで、治療中・治療後のお肌のくすみ・色素沈着をカバー、さあ街に出かけましょう。さりとて筆者は男性でメイクしません。ここでは、国立がん研究センター中央病院アピアランス支援センター/野澤桂子先生のお話をお知らせしてまいります。

抗がん剤治療によって脱毛や瘢痕等さまざまな外見の変化が起きると、患者さんにとって心理的なストレスとなります。2009年に国立がんセンターで実施された患者さんの苦痛の度合いの調査でも、苦痛度トップ20の半数以上は外見に現れる副作用だったそうです。脱毛・顔の変色等は、頭痛や吐き気等の身体的苦痛よりショックが大きい、という結果も得られています。

外見上の変化は「自分は魅力的でなくなった」という自己イメージの否定をもたらします。そのうえ外見上の変化は、がん患者さんにとっては「死の象徴」としてもとらえられてしまうことになります。そうしたことが「以前のようには人とつきあえない」という不安を生み、自尊心の低下をもたらし、心理的苦痛を強めると考えられています。人間はいわゆる社会的動物であって、外見は個人と社会との接点にあるものです。頭痛や吐き気等のような、単に本人がひとりで苦しいというような身体的苦痛と異なり、外見の変化による苦痛は、他者の存在に大きく関わっているといえます。

外見の支援(アピアランスの支援)というと、一般に美容上の支援ということを想像しがちですが、それは決して「美容的に美しくすること」にとどまるものではありません。医療の場で行うアピアランス支援の本質は「その人がいちばんいいかたちで社会に関われること」です。その具体的な手段としてメイクやウィッグがあるわけですが、それでもキレイになれば、即元気になれるほど人間は単純ではないのです。患者さんの本当の悩みを見つけることを、一番に考えなければなりません。外見は、社会的な動物である人間が、家庭を含む社会のなかでこころ豊かに過ごすためのツールのひとつに過ぎないということです。

アピアランス支援センターに、ウィッグの相談ということでカウンセリングに来られた患者さんが、ウィッグの相談は5分で終え、そのあとに「仕事への復帰について悩んでいるんです」と話されたことがあったそうです。患者さんは脱毛のことだけで悩んでいるのではなく、今後の生活についてのアドバイスを求めていた、ということになります。相談の結果によっては、ウィッグすら不要になるかもしれません。患者さんの本当の悩みは「変化したその部分」ではなく、「その先にある社会との関係」にあったのです。患者さんのバックグランドを理解し、今後は社会とどのように関わっていったらよいか、という視点に立ってサポートしていくことがだいじです。

別のもう1件、若い患者さんが「水に落ちない眉の描き方を教えてほしい」と相談に来られたことがあったそうです。デパートやドラッグストアの化粧品売り場にはウォータープルーフの商品がいくつも並んでいて、すぐ手に入ります。相談の理由をよく確かめると、「明日、職場に復帰するのだけれど、間違いなく泣いてしまって眉が消えてしまう」と。それはつまり、そんなにも温かい職場に戻る、ということです。「泣いて眉が消えても、周りの人たちはきっと、よく頑張った、よく帰ってきた、と一緒に泣いてくれるのでは?」とお話したら、「本当にそうです。気が楽になりました」と言って帰られました。この患者さんに一番大切な支援は、職場の仲間と温かで幸せな時間を共有してもらうことです。そこで眉が落ちないかどうかなんて、些細なことに意識がいったらもったいない。「アピアランスの支援」がゴールとしているのは、「患者さんと社会をつなぐこと」です。

国立がん研究センター中央病院アピアランス支援センター/野澤桂子先生のお話をお伝えしました。わたくしども患者会では10月、駒込病院内「美容室こもれび」の是枝店長さんをお招きして、アピアランス・ケアをテーマとしたおしゃべり会を開催する予定です。みなさまのご参加をお待ちしています。

出典 : 週刊医学新聞 2013.10.21 ほか

Responsible for the wording of this article is H.Endoh

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