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パラダイムシフト


肺がんの切除後に再発したのですが、そこからみるみるうちに快復した森喜朗元首相のオプジーボ投与例はよく引用されるところですが、先般は小林麻央夫人のオプジーボ投与についても報じられていました。さて2016年09月 悪性黒色腫の適応で既に承認を受けていたものの、オプジーボの高額薬価問題で薬価収載申請を見送り、「様子見」となっていたキイトルーダについては、2017年02月15日、1日あたり薬価でオプジーボと同額にて保険適用となりました。

以下、オプジーボ、キイトルーダの製品概要です。

ここでまず、免疫チェックポイント阻害薬について大まかに≪おさらい≫です。免疫の司令塔である樹状細胞ががんを発見すると、免疫にかかわるT細胞にがん抗原を呈示して攻撃のシグナルを送ります。T細胞はこれを受けて攻撃対象を認識し、攻撃を仕掛けます。このとき樹状細胞のB7というタンパク質がT細胞の受容体:CTLA-4に結合すると、T細胞のはたらきが抑制されます。さらにがん細胞は攻撃を逃れるためにPD-L1というタンパク質を発現してT細胞の受容体:PD-1に結合し、T細胞の攻撃にブレーキをかけます。そこで免疫チェックポイント(B7とCTLA-4の結合、PD-L1とPD-1の結合)を阻害し、T細胞を活性化させてがん細胞を攻撃する(がん細胞によるブレーキをはずして免疫のアクセルを踏み込む)はたらきをするのが、免疫チェックポイント阻害薬です。

オプジーボ、キイトルーダとも免疫チェックポイント阻害薬/坑PD-1抗体ですが、それぞれ開発・試験段階で差がありました。オプジーボの臨床試験(Chekmate26)では、がん細胞側のPD-L1発現を重視せず、非小細胞がん全体を狙って、治療歴のある患者を対象に臨床試験を実施し、効果があることを証明しました。その後ファーストライン(化学療法未実施の患者への初回治療)からオプジーボを使用してもらおうと試みた臨床試験では、効果が得られず失敗に終わりました。

キイトルーダの臨床試験(Keynote24)では、がん細胞側のPD-L1発現率が50%以上の症例に絞って、治療開始当初から投与され効果が認められました。PD-L1高発現(TPS≧50%)の未治療患者、および PD-L1発現(TPS≧1%)の治療歴のある患者を特定することを目的として、コンパニオン診断薬『PD-L1 IHC22C3 pharmDx ダコ』が併用されています。こちらは2016年11月に承認されています。

  ※TPS ・・・ Tumor Proportion Score(ここでは腫瘍細胞のうちPD-L1発現の割合)

これによりキイトルーダは、確実に効くはずだという患者を選んで投与することになり、ファーストラインから使用できる第一選択薬となることができました(ただし、EGFR遺伝子変異陽性、ALK融合遺伝子陽性の場合はファーストラインからの使用不可とされています)。それは同時に、進行性小細胞がん患者の3割程度まで、使える患者数を減らしてしまうことになりました。

現在のところオプジーボでは、食道がん、胃食道接合部がん、小細胞がん、尿路上皮がん、肝細胞がん、膠芽腫、悪性胸膜中皮腫その他について、キイトルーダでは、膀胱がん、乳がん、胃がん、頭頸部がん、肝がん、多発性骨髄腫、食道がん、腎細胞がんその他について、後期臨床試験が進行中です。さらに中外製薬のテセントリクほか坑PD-L1抗体、坑PDLA-4抗体の免疫チェックポイント阻害薬と併せ、国内では以下の5つの陣営で開発競争のうちにあります。

免疫チェックポイント阻害薬はその作用機序ゆえに、あらゆるがんに対する効果が期待されています。免疫チェックポイント阻害薬により、がん治療のパラダイムシフトがもたらされつつあるとも言われています。

出典 : MSD株式会社 プレスリリース 2017.02.15 ほか

Responsible for the wording of this article is H.Endoh

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