核酸医薬 episode2
- tutuji
- 2017年8月25日
- 読了時間: 3分
2017年7月3日、脊髄性筋委縮症治療薬:ヌシネルセンナトリウム(商品名:スピンラザ髄注12㎎)の製造販売が承認されました。乳児型脊髄性筋委縮症(SMA)治療薬として、わが国で初めて承認されたアンチセンス核酸医薬品です。
SMAの患者さんはSMN1(Survival Motor Neuron 1)遺伝子の欠失または変異により、筋肉を動かすために必要なタンパク質が正常につくられないため、進行性の筋委縮や筋無力を引き起こします。
支え無しに座ることができず、呼吸や嚥下など生命維持のための基本的な身体機能に支障をきたして最終的に麻痺状態となり、人工呼吸器無しに2年以上生存することができません。
ほぼ全てのSMAの患者さんで、SMN1遺伝子と似た構造のSMN2遺伝子を、少なくともひとつ以上持っており、SMN2遺伝子を複数持っているほど軽症になることがわかっています。
スピンラザは、このSMN2遺伝子のmRNA(メッセンジャーRNA)に結合してスプライシングを抑制します。
スプライシングが抑制されると筋肉を動かすタンパク質が増加し、運動機能の回復がもたらされます。
※スプライシング・・・DNA上の遺伝情報は、アミノ酸配列を規定するエクソンの間に、意味を持たない配列のイントロンが介在している。
mRNAは、イントロンを含んだままDNAから転写されるため、タンパク質に翻訳される前に写し取った遺伝情報のなかから、スプライシングによって不要部分のイントロンが除去される。
遺伝情報は「DNA→mRNA→タンパク質の順に伝達される」とされています(イギリスの生物学者:フランシス・クリックにより提唱された、分子生物学のセントラルドグマ(基本原理))。

「遺伝子治療」では、遺伝子をのせたベクター(運び屋)を患者さんに投与します。この運び屋には、細胞への感染性が高く染色体への遺伝子組み込み能力が高いといった特性を活かして、ウイルスベクターが多く用いられます。
ウイルスは単独では増殖できませんが、細胞の代謝系を利用して増殖します。
病原体として知られますが、遺伝的に改変し病原性を無くして治療に活用しています。
これに対し「核酸医薬品」は核酸そのものが機能するもので、遺伝子治療のように細胞に導入したDNAの配列をアミノ酸配列に置き換えることはなく、タンパク質への翻訳を介して作用発現するものではありません。
また遺伝子治療薬は鶏卵なり培養細胞なりを用意して生物学的につくられますが、核酸医薬品は化学合成でつくられます。
タンパク質を合成するmRNAの塩基配列を「センス配列」と呼びます。この配列に相補的な配列を「アンチセンス配列」といいます。
※相補的・・・DNAのヌクレオチド(塩基+糖+リン酸の構造を持つ化合物)の塩基は、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4種類で、その形から「AとT」「GとC」の組み合わせでしか結合できないようになっている関係

DNA→mRNA→タンパク質という遺伝情報の流れを、人工的に合成したRNA・DNAで遮断する方法をアンチセンス法といいます。
mRNAの塩基配列がわかっていると、標的遺伝子のmRNAに相補的なオリゴヌクレオチド(20塩基対以下の長さの短いRNA)を細胞内へ投与し、スプライシングを変化させ、mRNAの配列を修正することで有効性を発揮します。
「スピンラザ」は、変異したSMN1遺伝子の重複遺伝子であるSMN2遺伝子のスプライシングを変え、機能的SMNタンパク質の産生を増やすようにデザインされた、アンチセンス核酸医薬品です。
(次回に続きます。)
出典 : 日本経済新聞 2017/07/03 ほか
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