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松・竹・梅 の【 松 】 episode2


(前回からの続きです。)

免疫療法に関して、バズフィード・ジャパンの2017年7月7日のトピックスから、勝俣範之先生(日本医科大学腫瘍内科教授)、津川友介先生(UCLA助教)、鈴木美穂氏(記者・キャスター)による鼎談からの引用にてお知らせします。

「がんになった著名人には色々な誘惑があるそうです。突然知らない人から連絡が来て、「今やっている抗がん剤治療はやめたほうがいいですよ」とか、「お金をかければもっといいのがありますよ」とか。しかし、代替医療、特に悪質な代替医療にすがってしまったために、本来の標準医療が行われずに命を落としてしまった、ということになりかねません。がん患者さんの相談に乗っていると、標準医療でない治療を受けた患者さんが、「私は間違った治療を選んでしまった」と、納得できないまま亡くなってしまうというケースがあります。たとえがんになっても、最期まで自分らしく生きて亡くなるのと、失敗したと後悔して亡くなるのとでは、心の穏やかさが違います。残されるご家族にとっても同様です。」

「いわゆる情報の非対称性というものが解消されいなかで、患者さんは圧倒的に弱い立場にあります。お金さえ出せばほかにもっとよい治療があるのではないか、もしかしたら自分にだけは効くかもしれない、今できることをやっておかないと後悔する、と考えるのが患者の心理です。内緒でやる人もいますが、主治医に相談する人も多く、そのとき、藁をもつかむ思いで「詐欺まがいのものでも信じたい」「インチキとわかっていても一縷の望みで信じたい」と思っている患者さんに対し、科学的根拠を示して理論で納得してもらおうとしても難しいものです。完治が難しい再発・転移の患者さんこそ、個人の生活に寄り添い、その死生観に沿った治療について、時間をかけてさがしていくことが求められますが、いそがしい主治医にそんな余裕はありません。ここをうまくサポートできず、積極的治療が難しくなったときに、病院から放り出されたように感じてしまったら、無責任に「治りますよ」と心地よい言葉をかけてくれる自由診療クリニックに、患者や家族は救いを求めてしまいます。」

「一方 自由診療クリニックでは、患者さんが医療費を払えなくなったら、「もうやることはないから出て行って」と見捨てられたという話もあるそうです。日本医科大学/勝俣範之先生によれば、「免疫細胞療法に何百万円もつぎ込み、病状を悪化させてから駆け込んでくる患者さんがあとを絶たない。科学的根拠のない治療で、患者さんから貴重な時間やカネを奪い、心身にダメージを与えてしまう行為はもはや医療ではなく、医師としての倫理観に欠けた人体実験であり、詐欺まがいの商法だ。効果があると主張するなら、患者の自己負担のない臨床試験で証明してから行えばいい。」とされています。」

「自由診療で免疫療法を提供する某クリニック主催のセミナーで、「自由診療ではなく臨床試験で治療を行うべきではないか」と質問したところ、「できれば臨床試験でやりたいが、資金が足りず実施できない」という答えが返ってきたそうです。埼玉医科大学/藤原恵一先生によれば、「高額の医療費を取っているなら、それを基金として研究を行えばいい。それをしないのなら、効果を証明する自信が無いと受け取られても仕方ない。」とされています。」

「うしろめたいところがある輩ほど、やさしい顔をしている」とか、「だまされていると知りつつも、あたたかく処遇されれば感謝してしまう」とは、何たることでしょう。需要があるから供給がある? そんなことで許されるの?

前述の勝俣先生による、あやしい医学を見分けるスクリーニングの基準をお示しします。

1.「○○免疫療法クリニック」「最新○○免疫療法」ときたら怪しい

2.「XX%の患者に効果」とあるが、調査・試験などの詳細は示されていない

3.自称「先進医療」

現在のところエビデンスが揃わないが、将来 効果が見込まれるようであれば、厚労省が先進医療に指定しているはず。

4.患者の体験談

この人が治ったのなら自分も、と思わせるもの。そもそも登場する患者が実在しない場合も。

5.仰々しい表現で患者の心理をあおる

「奇跡の」「死の淵から生還」など。「がんが治った」とやってしまうと薬機法に抵触するので、「がんが消えた」と言う。

そして、東京医科歯科大学/石黒めぐみ先生による隠喩を紹介します。正しい理解のために、けっして不謹慎な表現にはあたらないと思料しつつ。

「標準医療は、うな重の「松・竹・梅」の【松】です。標準というから平均的な「竹」と捉えられがちだけれども、先進医療にエビデンスが追いついていって認められれば、やがてそれがこれまでの標準医療にとって代わって新たな標準医療になる、という性格のものです。標準医療は、現時点での最高水準の医療です。」


出典:「東京医科歯科大学「がんを考える」市民公開講座」パンフレット2017年10月 ほか

Responsible for the wording of this article is H.Endoh

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